26.03.06
怒りで他人を説得はできない | 森鴎外の「知恵袋」
怒らざる事(怒りで他人を説得はできない)
……汝もさすがに怒りを発せざるを得ないだろう。そこが肝腎なところだ。何事にもまず冷静を以て対処せよ。冷静ということが第一である。どんな場合にせよ、怒りを以て他人を心服せしめることはできないのだから。
昔この一節を読んだときは、何となくそうかもしれないと思っただけだった。けれども「怒りで他人を従わせることはできない」というフレーズは妙に頭に残り、お陰で感じ取れたことがある。
▼ 目次
それは正義よりも攻撃中毒だった
あるサークルに少しばかり所属していた時のこと。
リーダーはあまり気が利くタイプではなく、逆に気の利く副リーダーのお陰でうまく回っているような状態だった。
しかしこの副リーダーが辞めることになり、サークルの空気は悪化。リーダーはどんどん空回りをするようになってしまった。
そんな中、私はある日サークルメンバーのAさんという女性に紅葉巡りに誘われた。
すると当日、綺麗な紅葉を背景に、Aさんの口から出てくるのはとにかくリーダーを糾弾する内容ばかり。
この前リーダーがこんなことをして…ありえない。私がこんな風に言ってやった。リーダーが大嫌いだ。
リーダーの失敗や欠点を言い連ねては「こんなことではサークルはダメだ!どうにかしなければ大変なことになる」と言う。
紅葉を見にきたのに、なんでこんな話を延々と聞かされにゃならんのだと思ったが、あまりにも勢いが激しい彼女に弱い私は気圧されて何も言えず、ただ夢中で話し続ける彼女を眺めるうちに、1つ感じていた。
(ああ…彼女はサークルを良くしようっていうよりも、ただ嫌いな人を攻撃したり負かしたいだけみたいだなあ。)
「怒りで他人を説得はできない」というフレーズが不意に浮かぶ
人の心の内はわからないので、私が誤解しただけで彼女には本当はサークルを改善しようという目的が第一にあったかもしれない。
ただ、もしそうだったとして、彼女のあの怒りのままにリーダーに言葉を投げたら、例えそれがどんなに正論だったとしても、リーダーの心に響くことはなかったと思う。
攻撃姿勢の人の意見を冷静に飲み込むなんて、簡単にできることじゃないのだ。
例えば、親に「帰ったらまず宿題をやれ。先にやれば楽なのに、なんで分からないんだ!」と強い口調で言われたら、素直に受け取りにくい。頭で分かるよりも先に心が傷ついてしまう。
とはいえ、親なら「自分のことをよく知ってる」という前提があるぶん、まだ飲み込める余地がある。
普段愛情を感じていれば、あとで気持ちが落ち着いて、(まあ確かに宿題は先にやった方が楽でいいんだよね)なんて思えるかもしれない。
でも私たちが日々暮らしている中で、そこまで深い関係性の人がどれだけいるだろう?
自分の意見を相手にも理解してほしかったはずなのに
私自身、怒りに支配されてしまうことが多くある。
嫌いだと感じたらなかなか相手の言い分を冷静に受け止められないし、怒りのままに自分の思う正論で相手をねじ伏せたいとさえ思う。
でもそれはもう相手を殴って負かしたいだけだ。
相手は、そんな攻撃姿勢の私の意見を受け止めてはくれない。
対立したまま終わるだろう。
仮に相手をねじ伏せることができたとして、相手は真に納得したわけじゃない。ただ喧嘩で負かした相手が、大怪我のせいで何も言えなくなっただけのような…どこか暗い後味がある。
ただ自分の意見を相手にも理解してほしかっただけのはずなのに、むしろその目的からは遠ざかってしまっている。
場合によってはもちろん、強く言うべき場面はある。でもそれは内心冷静な心持ちで使うべき道具であると思う。怒りに支配されたものではなく。
じゃあどうしたらいいのか、私なりの冷静
私は早々にサークルを辞めた身なので、リーダーのことはよくわからない。
あのままサークルにいたら私もリーダーが大嫌いだったかもしれない。
私は所属期間が短く大して思い入れができなかったサークルの問題を解決しようとまで思えず、首を突っ込まずにただ黙っていた。
…でも、もしサークルの空気を良くしようとするならば、まずはリーダーの話をよく聞いて、相手を想いたい。
自分を受け止めようとしてくれる人の意見は、そうでない場合よりもずっと真面目に聞いてもらえる。
リーダーが嫌いだったらすごく難しいと思う。
負のエネルギーは強く、抑えるのは本当にきついものがある。でも努力したい。
相手に受け止めて欲しいのなら、まずは自分からしなければならないから。
とはいえ人間だから、それでも上手くいかないかもしれない、理解し合うまでの時間がないかもしれない。
でも、最初から喧嘩をするよりはずっとずっと活路があると、私は思う。
怒りを以て他人を心服せしめることはできないのだから。
森鴎外の「知恵袋」について
この本は、人づき合い・振る舞い・心の整え方といったテーマが、短い項目としてまとめられたものです。箴言集ですね。
森鴎外自身の文章は文語で書かれていますが、
現代語訳が付されているため、文語が苦手でも読みやすくなっております。
内容は、言ってしまえば処世術です。
一貫して社会と関わることを前提にした助言であり、それゆえになるほどと思わせられる具体性があります。
明治時代の文豪といえど、現代にも通ずるものばかりで面白いです。いつの世も人は変わらない…ということでしょうか。
気になった方は、よろしければお手に取ってみてくださいね。



